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省エネFAラインが招くノイズ障害と対策事例 技術情報

株式会社電研精機研究所 ノイズトラブル相談室 チーフテクニカルエンジニア 石井 治幸

TECHNICALREPORT

1. はじめに

 近年、コンピュータやメカトロ技術の目覚ましい発展により、生産設備はさまざまな機器が自動化され、多品種少量生産に対応した24時間フル稼働の無人化ラインが構築されるようになってきた。これらの構築と発展に欠かせない機器のひとつに、「汎用インバータ」が挙げられる。

 汎用インバータは、誘導電動機を任意に速度制御できることや省エネ効果等により、広く生産設備の自動化に貢献してきたが、反面、大きな電気エネルギーを高速でスイッチングする仕組みであることから、連続的にノイズが発生する。このため、汎用インバータの入出力ケーブルと他の電子機器やセンサ等のケーブルが接近して敷設されていると、電子機器の感受性によっては、誤動作や通信障害等の深刻なノイズトラブルを引き起こす恐れがある。

 ここでは、汎用インバータから発生する広帯域の高周波ノイズを防止し、誤動作対策だけでなく、漏れ電流対策 (漏電ブレーカのトリップ事故対策)まで対応した、きわめて実用効果の高いノイズ防止技術をハードとソフトの両面で紹介したい。

2. ≪ノイズカットトランスTM≫とは

 (株)電研精機研究所は、1960年から独自の理論展開により、世界に先駆けてトランス形のノイズ防止素子を開発実用化し、≪ノイズカットトランスTM≫と名づけた。

 ≪ノイズカットトランスTM≫は、分離絶縁した2コイル間の、原理的にシールドだけでは防止できない高周波の磁束成分を除くことによってノーマルモードノイズ(電線路の2線間を還流するノイズ)を遮断し、それによってコモンモードノイズ(電線路の2線を同相方向に進み大地を還流するノイズ)も接地(対地アース)に依存することなく、より確実に防止できる等の特徴がある。

 ちなみに、1次コイルと2次コイルを分離絶縁しているトランスには、従来から「絶縁トランス」や「シールドトランス」がある。これらのトランスを用いても、低周波のコモンモードノイズであればある程度は防止できるが、ノーマルモードノイズは、トランス本来の電磁誘導作用によって伝達してしまうため、ノイズ防止や対策には使えないことが多かった。特に、最近のトランスは、省エネのために高磁束密度、高透磁率を可能にした磁性鋼板が開発され、基本周波(50Hzや60Hz)における高効率化が図られた故に、不要なノイズに対しても損失が少なく、高周波まで良く伝達する傾向にある。

 ≪ノイズカットトランスTM≫は、電源ラインから侵入してくる1GHzに至る広帯域のノイズに相当する高周波の成分に対して、伝達効率が低下するように開発・設計された分離絶縁形のノイズ防止素子である。このため、応えて厳しい電磁環境下においてもノイズ防止対策の「切り札」となる。

 一般的な「絶縁トランス」や 「シールドトランス」と「≪ノイズカットトランスTM≫」の基本構造の相違とノイズ遮断特性の比較を図1、図2に示す。

 諸 元絶縁トランスシールドトランス≪ノイズカットトランスTM
シンボル
    
ノーマルモードノイズ
上:1次側電圧波形
  (発生源側)
下:2次側電圧波形
  (被害側)
Y:100V/div
X:0.5ms/div
   
コモンモードノイズ
上:1次側電圧波形
  (発生源側)
下:2次側電圧波形
  (被害側)
Y:100V/div
X:0.5ms/div
   
要 約
 ノーマルモードもコモンモードもノイズは全て通過。ノーマルモードは通過。コモンモードの周波数の低い部分は防止されているが、高い部分は通過。ノーマルモードもコモンモードもノイズを防止。
図1 各種トランスの基本構造とノイズ防止効果の違い


減衰率
[dB]
周波数[Hz]
  絶縁トランス
シールドトランス
≪ノイズカットトランスTM
図2 各種トランスの減衰特性の比較


 ≪ノイズカットトランスTM≫の備えるべきポイントは以下の3点である。

(1)1次と2次のコイルを通常のトランスに反して密接させず引離し、コイル内の空心と周辺の空間を通る磁束が互いに鎖交し難い位置に配置すること。

(2)各コイルと端子やリード線等のすべての導電部を遮蔽体ですき間なく覆い、電力の伝達方向に対して多重に設け(3重が基本)、設置導体や負荷機器のグランドに個別で任意に低インピーダンスに接続できる構造であること。

(3)鉄心の実効透磁率が、伝達すべき低周波では高く、高周波になるに従いできるだけ低下する材質と形状であること。



図3
≪ノイズカットトランスTM≫シリーズ

3. ノイズトラブル相談室

 ノイズ防止対策に際して≪ノイズカットトランスTM≫は、最も確実な電源ラインにおけるノイズ防止素子である。しかし、ノイズの侵入径路は、電源ライン以外にもありとあらゆるインターフェイス、信号ライン、センサ等の可能性があり、それらを適切に見極め対処する必要がある。

 当社では、多様化する今日のノイズ障害防止に対し、製品の供給だけでなく「ノイズトラブル相談室」が様々なノイズトラブルの解決を目的とした専門家として、「ノイズ相談」、「ノイズ調査」、「現地技術援助」等、即効性の高いコンサルティングを行っている。47年間に渡り蓄積した豊富なノーハウを基に、あらゆる産業界の様々なノイズ問題の調査・対策を数多く手掛け、困難なトラブルを解決してきた実績がある。

ノイズトラブル相談室
042-473-3745
ノイズ
相談
 ノイズ
調査
現地
技術援助
図4 ノイズトラブル相談室の活動概要

ノイズトラブル相談室の活動内容の概要を以下に紹介する。

(1)ノイズ相談
 メーカーやユーザーを問わず、ノイズによって電子機器が障害を受けたり、逆にノイズを発生して他の電子機器に障害を与える等のトラブルに対し、テクニカルエンジニアが無償で個別相談に応じている(出張相談は費用が発生する場合もある)。

(2)ノイズ調査
 相談をいただいた中で、現地での詳細な確認作業が必要な場合や、ご相談者が直接対応することが困難な場合、トラブルが発生している現場に急行し、ノイズの実態(発生源や侵入径路の確認)を専門的な視点で調査を行う作業である。ノイズ調査の結果から、その障害要因について考察し、これを解決するための具体的な対策方法について提案する。

(3)現地技術援助
 ノイズ相談やノイズ調査を実施した結果から、技術援助の必要性が生じた場合、専門的な立場で具体的なノイズ対策を現地で実施している。これは、当社独自で行うものではなく、対象装置のメーカーやユーザーの設備ご担当者と協力して行う共同作業である。現地技術援助を行うことで、比較的短時間に効果的な対策を実施したり、その対策の方向性を出すことが出来る。

4. ノイズ障害の対策事例

 本事例は、汎用インバータの動作に伴い発生したノイズが、電源ラインに伝導、および空間に放射して伝播し、制御回路のセンサが誤動作していた生産ラインでのノイズ障害の対策事例である。


(1)事例の概要
 弊社相談室に、国内のある工場の設備担当者から、ノイズトラブルに関する緊急の相談が届いた。その内容は、「特殊な金属を均一の厚さに圧延し、ロール状に巻き取っていく生産ラインで装置が突然停止してしまい、生産中の製品が全て不良品となり多大な損害が生じてしまう。至急、現地でノイズ調査を実施して欲しい」という内容であった。

 直接、ご担当者に連絡を取り詳細を確認したところ、

1.圧延ロール等の誘導電動機に汎用インバータが合計7台使用されていた。

2.制御回路用の供給電源は、汎用インバータの動力用三相400Vから単相だけを取り出し、絶縁トランスで100Vに降圧した後、ノイズフィルタを介して供給していた。

3.障害発生後、装置メーカーに相談し、汎用インバータの供給電源ラインに装置メーカーが推奨する三相用の大形のノイズフィルタを追加した。しかし、誤動作の発生頻度が多少減ったものの、トラブルは継続した。

4.加えて、ノイズ対策用に追加した大形のノイズフィルタの影響で、漏洩電流が増加し、主幹の高圧受電盤に設けられた漏電ブレーカがトリップしてしまうという、新たなトラブルが発生した。しかしながら、その安全性に不安が生じていたものの、生産を止められないため、やむを得ず漏電ブレーカをバイパスして稼動を続けていた。

5.一方、装置メーカーも約半年間に渡り、何度か調査・対策を実施してはいたものの解決に至らず、お手上げの状態であった。

(2)ノイズ調査の実施

図5 測定ポイントの概念図

 汎用インバータの電源ライン(AC400V系)や制御回路の電源ライン(DC12V系)を中心に、ノイズの有無、その電圧レベル、周波数等を測定した(図5参照)。

1.障害発生後、対策として新たにノイズフィルタが設置された汎用インバータの電源ライン(AC400V系)において、汎用インバータ動作時に周波数3.3MHz、レベル30Vp-pの高周波ノイズが約20kHzの一定周期で常時測定された(波形1参照)。汎用インバータが停止するとこのノイズは確認されなくなった。


波形1 対策前の汎用インバータの電源ライン(AC400V系)で観測された高周波ノイズ


2.絶縁トランスとノイズフィルタを介した制御回路の電源ライン(DC12V系)においても、汎用インバータ動作時に常時、 周波数3.3MHz、 レベル3.5Vp-pの高周波ノイズが、約20kHzの一定周期で測定された(波形2参)。


波形2 対策前の制御回路の電源ライン(DC12V系)で観測された高周波ノイズ


3.このことから、1.2.のノイズの周波数成分は、一致していることが確認された。
また、汎用インバータから発生していたノイズは、周波数が3.3MHzと比較的高く放射性も強いため、電源ラインを伝導するラインノイズの対策に加え、空間を伝播する放射ノイズの対策も必要であると推定された。

(3)ノイズ対策を実施

図6 実施した対策の概念図

 1.ラインノイズ対策ノイズ発生源である汎用インバータの電源ライン(AC400V系)に≪ノイズカットトランスTM≫を装着したことにより、汎用インバータの電源ラインで測定されていた30Vp-pのノイズが、実用上問題とならない5.8Vp-pまで低減していることが確認された(波形3参照)。
X:50μs/div Y:5V/div


波形3 汎用インバータの電源ライン(AC400V系)に≪ノイズカットトランスTM≫を
装着したときに観測された高周波ノイズ

2.放射ノイズ対策
  ≪ノイズカットトランスTM≫の出力側から汎用インバータまでの電源ケーブル、および汎用インバータから誘導電動機までのケーブルを「シールドケーブル」に変更したことにより、5.8Vp-pのノイズが測定限界値以下にまで低減していることが確認された(波形4参照)。
X:50μs/div Y:5V/div

波形4 汎用インバータの電源ライン(AC400V系)に≪ノイズカットトランスTM≫を装着し、
   ≪ノイズカットトランスTM≫の出力側をシールドケーブルに変更したときに観測された高周波ノイズ

3.上記1.2.の対策の結果、制御回路の電源ライン(DC12V系)におけるノイズが、対策前に測定された3.5Vp-pから、0.5Vp-pまで低減していることが確認された(波形5参照)。
X:50μs/div Y:1V/div

波形5 汎用インバータの電源ライン(AC400V系)に対策を実施した後の制御回路の電源ライン
     (DC12V系)で観測された高周波ノイズ

(4)ノイズ対策実施後の結果

 ノイズ発生源である汎用インバータの電源ライン(AC400V系)に≪ノイズカットトランスTM≫を装着(ノイズ発生源と被害装置との電源ラインを高周波まで分離絶縁)した結果、制御回路の電源ライン(DC12V系)で観測されたラインノイズを確実に低減させることが出来た。同時に、放射ノイズを防止するためにシールド対策も実施したことで、ノイズレベルを更に低減させることが出来た。

 また、汎用インバータから発生した高調波から高周波に至る電流が、ノイズフィルタを介して大地に漏洩することによって発生していたと推測される漏電ブレーカの誤動作に対しても、≪ノイズカットトランスTM≫装着によりコモンモードにおいても高周波に至る(DC~1GHz)まで電源ラインを分離絶縁したため、このトラブルも併せ同時に解決することが出来た。

 この結果を踏まえ、各汎用インバータの電源系統に≪ノイズカットトランスTM≫の導入を行った。

 その後、設備のご担当者から、「設備は誤動作することなく稼動している。また、漏電ブレーカのバイパスも外され、安全性も保たれている」との連絡をいただいた。

  
≪ノイズカットトランス≫≪ノイズカットAVR≫
  
≪ノイズカットCVCF≫≪ノイズカットUPS≫

図7 ノイズ遮断シリーズ

5. おわりに

 今回の事例のように、最近ではノイズ発生源と被害装置の混在化が一層顕著になってきているため、一度のノイズトラブルで甚大な損害に及んでしまうケースも少なくない。

 また、ノイズ対策は、トラブルが発生してからの事後対策が多いが、解決に至るまでの対策に費やされる時間と費用は増大傾向にある。したがって、ノイズトラブルが発生することで被害が甚大になる恐れがあるシステムや機器に対しては、事前にノイズ発生源と被害を受ける可能性の高い装置の電源ラインに、≪ノイズカットトランスTM≫による分離絶縁(アイソレーション)と、放射ノイズに対するシールド対策を併せて行い、ノイズトラブルの発生を未然に防止することを考慮した設備設計やシステム設計を講じておくことが賢明である。

 万が一、ノイズが疑わしいトラブルが発生した際には、弊社ノイズトラブル相談室にお気軽にご相談いただきたい。


〔ノイズトラブル相談室 TEL042-473-3745/FAX042-474-0613〕

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